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「ものさし」の消えた世界


 私は、毎日体重計に乗っています。それは、生活習慣病予防のためというほどでもありませんが、適正体重を維持するためです。ダイエットというよりは、ウェイトコントロールという言葉がぴったりくると思います。

 自分で決めている基準体重○○kgを超えないようにするため、お風呂上りに体重測定をすることが日々の習慣になっています。そして、基準体重を超えるようなことがあれば、間食をやめたり、ご飯の量を減らしたりします。

 ある時、体重計の電池が切れて、しばらく使えないことがありました。その後、電池を入れ替えて久しぶりに体重を測ると、基準体重をかなりオーバーしていました。残念ながら、体重計という「ものさし」がなくなると、うまく体重をコントロールすることが出来ませんでした。

 もし、世の中から体重計という「ものさし」がなくなってしまうと、私と同様に体重を増やしてしまう人が多く出るのではないでしょうか。やはり目に見える形で結果が出ないと、どうしても意識が下がってしまいます。

 今の学校教育は、まさに「ものさし」が消えてしまった状態ではないでしょうか。現在の小学校の観点別評価の通知表によって、お母さん方が具体的に子供たちの学力を推し量れるでしょうか。私は不可能だと思います。

 まず、子供たちの業者テストの結果と学校の通知表の評価は、あまり比例していません。業者テストで偏差値60の子の通知表が中程度の評価になっていたり、偏差値50の子の通知表が最高の評価になっていることはよくあることです。

 このことを知っているのは、多くの小学生の通知表と業者テストの結果を見比べることが出来る我々だけですが、残念ながら個人の情報を公開することは出来ませんから、「よくあることです。」とお伝えするしかありません。

 また、通知表で最高の評価をもらう子には、共通点があります。明るく積極的で、授業態度が良く、宿題や提出物をきちんと出せる子です。それはそれで高い評価をもらう値打ちがあると思いますが、学力が通知表の基準になっていないことは確かです。

 そのようなことになる原因の一つに、学力の絶対評価を導入したことがあると思います。相対評価と違って上位者の割合が決まっていないので、「出来ている」とする基準の決め方次第で、いくらでも学力上の合格者を出すことが出来ます。そして学力で差がつかないために、授業態度や提出物で差がつくということです。

 具体的に説明すると、以前は、クラス全員が100点を取っても、通知表の5段階評価の「5」の割合が決まっていたので、無理にでも差をつけなければならなかったのですが、今の絶対評価では、100点を取った子全員に、最高の評価を出すことが可能です。そして、テストの難度を下げれば、いくらでも最高の評価をもらう子を増やすことが出来ます。
 最近の学校での単元別テストのみの実施は、事実上、テストの難度を下げているに等しいと思います。それは業者テストで5割取ることが出来ない子でも、学校のテストでは、いつも100点(高得点)をもらうことからも分かります。このようにして多くの子が100点(高得点)になるため、学力以外のことが通知表を左右することになるわけです。

 さらに問題なのが、学校の先生がクラス運営を容易にするために、「内申書の評価を良くしてもらいたければ、先生の言うことを聞きなさい。」という指導が行なわれる恐れがあることです。なぜなら、各都道府県に設置された中高一貫校の合否には、内申書の評価が大きく影響するからです。そして「合格したければ言うことを聞きなさい。」とプレッシャーをかけることは、学力ではなく授業態度で内申書の評価を決めるということを意味します。

 加えて、通知表が、相対評価の5段階であった頃は、自分の教え子に「1」をつけるのは、先生方にとって、とてもつらい行為だったと思います。ところが、絶対評価になったことで、ついつい甘い評価になる危険もあります。場合によっては、良い評価さえつけていれば、父母からのクレームが少なくなると考えても、おかしくないと思います。

 以上のことは、とても学校の先生方に対して失礼な憶測ですが、私が学校の先生の立場であれば、今の学校制度の中で、そのような気持ちになっても仕方がないという勝手な妄想です。

 学校現場から、純粋に学力の到達度を測る「ものさし」がなくなった今、子供たちは、自分の正確な学力を知ることは出来ません。そのことが、学力向上のために頑張ろうという意欲を奪うのではないでしょうか。

 観点別評価は、それはそれで良いと思います。でも、子供たちやお母さん方が、正確な情報を得るための「ものさし」も、用意すべきではないでしょうか。

2006/12/07

 

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